読売新聞
人  世界が舞台
有希屋良 Yukki Yaura  屋良有希

英国でアーティストとして活躍しながらカワウソやイリオモテヤマネコなど絶滅寸前の日本の動植物を同じく滅びつつある日本の伝統芸術である絵巻物に描いて残すというユニークなプロジェクトに取り組んでいる。
「絵巻物は昭和初期以降作る人がほとんどおらず、過去のものいなりつつあります。環境問題に対する関心も日本ではまだ低い。かけがえのない日本の文化と自然をつぎの世代に残していかなければ」と、穏やかな口調で強い使命感を語る。

対象となる動植物の生体をあらゆる角度からとらえ、一品種ずつ一本三十メートルにも及ぶ絵巻に収めていく作業。もともとは王立芸術大学大学院 (RCA) の研究プロッジェクトとして始めたものだが、今はライフワークとして生涯続けるつもりでいる。

幼い頃から漠然と画家の道に進むことを考えていた。代々絵師家系の出身である母親の勧めで、三歳の時から水彩画と油絵の先生に師事。続いて六歳で書を十二歳で日本画を学びはじめた。

日本で大学卒業後、欧米諸国を旅行,立ち寄った英国の風土が気に入り翌年アーティストビザを取って本格的にロンドンに腰を落ち着けた。その後、バービカンや自然歴史博物館などでの展示会のほか、水墨センターを開設したり、BBCテレビの日本語教育番組の中で書を披露したりと、着実にキャリアを積んできた。
「自然博物画を描くためにはエコロジー(生態学)の知識が必要不可欠」という考えから、九十一年大学院に入学。幼少のころから持っていた生物への興味を追求するにつれ、次第に身近な動植物から地球規模の環境問題へと知識の輪を広げていった。

「自然破壊へとつながった人間中心の科学思想を生んだのは西洋ですが、近年の英国は逆の方向に向かっています。人間も結局はエコシステムの一部でしかないととらえて、森林や動物の保護にとても積極的」と感心する。
一方、日本については「本来は豊かな自然と共存していたのに、明治以降すっかり考え方が変わってしまった。動物愛護などの思想をストレートに訴えても煙たがられるだけ」だからこそ絵巻物プロジェクトにやりがいを感じているようだ。「英国でこの仕事をするのも、まず英国人の関心をひき日本に逆輸入すれば、理解を示す人も出てくる筈」自分の信条をはっきり口にできる英国の風潮が性に合っており「世界でも最高の水準」と信じる日本文化を西洋に広める「文化外交官」としての使命も強く意識している。

英国の鬼才ピーター. グリナウェイ監督の映画「枕草子」の制作にも参加し、清少納言の文を登場人物の体の上に毛筆で書いた。

最後に、「八十年代から日本文化に対する英国人の興味は高まっているが、まだまだ一部の人の異国趣味。日本のいい所を理解してもらうためには、どんどん外国に向けてアピールしなければ」と語った。

略歴 東京都出身。書家の柳唐や日本画家上村淳之らに師事。前現代水墨画協会会員、英国王立芸術大学院で博士号修士課程。

読売新聞 ロンドン支局 小松原理和